黒い材料の匂い

2009年3月11日 日常
どこを歩いたって、道はアスファルト舗装が施されている。たまに砂利道なんかに出くわすと、そこだけがいびつに取り残された感じがして、少し懐かしいような哀しいような気分になる。蕎麦屋の道を通ったとき、その道が、今まさに舗装されようとしていた。もともと舗装はされていたのだが、水道の工事によって道路が掘り返されたから、碁盤のような模様になっている。その水道工事も終わって、きれいに舗装をするようなのだ。

大型トラックから、液体だか、固体だか、わけの分からない黒い材料を、舗装する機械に流し込んでいた。材料が入った機械は少しずつ前進して平らな舗装ができあがっていった。僕はその様子を蕎麦屋の前で眺めていた。その黒い材料の匂いは油っぽくて、喉が小さな棘で刺されるような刺激を受けた。これはあまり長くいると喉をやられるなと僕は思った。

そのとき蕎麦屋の玄関があいて、割烹着を着た白髪の老人が怒鳴り出した。蕎麦屋の主人らしき老人は興奮した表情で何を言っているのかわからない。主人は舗装している作業員をつかまえて、異常な剣幕で文句を言っている。
「店を営業しているときに工事なんかやるな。誰ひとりお客がこないじゃないか」
僕はこの蕎麦屋で一度だけカレーうどんを食べたことがある。うどんは丼の中で団子のように固まって、無理に箸でうどんを引っ張ると、ぶつぶつとうどんは細切れになった。汁はちっとも辛くなく、チーズのような味がした。食べているうちに気持ち悪くなってしまった。

確かに工事の影響もあるかもしれない。でも本当にそれだけなのか。主人は白い鼻毛の束を(それはまるで新しい毛筆のようだった)鼻から出しながら、作業している人たちを睨んで店の中に入っていった。僕はあまりにも情けないものを見てしまったので、気分が落ち込んでしまった。

僕は帰途する道中、変な咳ばかり出た。咳をすると止まらなくなって戻しそうになるのだ。これはあの黒い材料のせいではないかと思った。僕はふらふらになって家に着いた。冷蔵庫にいるような寒さが僕を襲った。体温を測ったら39度1分あった。これは風邪なのか。早く寝ることにしよう。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索