千切れた肉

2011年2月17日 胡蝶の夢
近所をぶらぶらと歩いていたら、山田に会った。山田は会社の後輩で文字の読み書きが苦手な人だ。仕事に出るときは社長に伝票を書いてもらって、その伝票を持って仕事に行く。山田は僕に気づくと自転車を下りて近寄ってくる。

「やあ、どうした?」
僕は山田に声をかけた。
「あの、親戚が死んじゃって。それで、遺体を運ぶの手伝ってほしいんだ」
「えっ!そんなの」僕は絶句した。
「どうやって運ぶんだよ。業者に電話して運んでもらえばいいんじゃないか」
いやまてよ。この場合救急車を呼ぶのかな。それとも葬儀屋に連絡するのかと考えていると、
「うーん、そうだよな」と、山田のつぶやく声がした。
山田は深く息を吸い込み、ちょっと家まで一緒にきてほしいと言った。

家に着くと、山田は自転車を玄関の前に置いて家の中に入っていった。
僕は玄関の外に置いてあった壊れかけた椅子に腰掛けて山田を待った。
突然、路地から白い猫が現れて、僕を睨むと姿を消した。
僕の中にどこか落ち着かない気分が競り上がってきて、なんとかすっきりさせたかった。

建物の間から千切れたような雲が浮かんで流れた。

「山田さーん!これ、食べるー?」
近所のおばちゃんが手に赤いかたまりを握って、玄関から奥の方に声をかけた。
反応がないので、おばちゃんは僕をちらりと見て、「あんた、これ食べる?」と訊いた。
おばちゃんはかたまりを半分に千切って僕に差し出した。
僕は手に受け取って、そのかたまりを眺めた。
それはどうやら肉のようだ。なんの肉だ。牛肉?豚肉?
再び、おばちゃんは奥の方をのぞいて、食べるかどうか訊いていた。
「そんなの、食べないよ」
ようやく山田の声が返ってきた。
おばちゃんは僕の手にあったかたまりを奪い取り、ふたつのかたまりをひとつに合わせて放りなげた。
「そんじゃ、あんたに全部あげるわよ」と言い、去っていった。

こんなもの誰が食うか。
僕は玄関のたたきに置き去りにされた肉を睨む。

手首

2010年6月12日 胡蝶の夢
自分の机の下が乱雑だった。掃除しようと思って机の下にもぐり込んだ。3つの工具箱をどかしてゴミを集めた。そのゴミの中に人間の手首がまざっている。ある会社の社長が工作機械で手首を切断してしまって、その手首を僕にくれたのだ。何かに使えるかなと貰っておいたが、使い道に困って机の下に置いたままだった。僕はゴミと一緒に手首を袋に突っ込んだ。

僕のうしろに部長がいて、席に座って両側の人と話をしている。両側の人は盛んに部長にゴマをすっている。部長になったばかりの彼は自慢話をしている。どの会社にも派閥はある。僕はどこにも属さないアウトサイダーといった感じ。

石さんが僕の机の下にもぐりこんで、
「ほら、ここが弱いからさ。木の板で補強したほうがいいぜ」
「なるほど」と僕は感心した。
板を用意して、机の足の部分に打ちつけた。
それから工具箱の中を整理し机の下にきちんと置いた。

手首が入ったゴミ袋が気になった。
このまま捨てて誰かに発見され、バラバラ殺人事件に発展しては困る。
僕は焼却炉にゴミ袋を入れて燃やした。
「熱い」
体に汗がどっと流れた。
そこで目が覚めた。

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