バベル

2010年8月30日 映画
それは本当に些細なことだった。

一丁の拳銃を買ったモロッコの羊飼いが子供に拳銃を与え、これで羊を守れという。拳銃の恐ろしさを知らない少年は試し撃ちするうちに、その銃弾がバスに乗る観光客に当たってしまい瀕死の重傷を負う。まわりに病院がなく、応急処置をとるのがやっとだ。初めは小事だったことが大事になり、マスコミに報道される。

その拳銃はもともと日本人が所有していたもので、観光案内をしてくれた外国人にあげたのだった。日本人の娘は聾唖の女子高生で、現状の障害に悩んでいる。薬とアルコールに溺れ、今が楽しければいい若者と遊ぶが心は癒されない。淋しさに女子高生は刑事の救いを求めるが、拒否されてしまう。

一丁の拳銃をめぐって、人間模様をリアリティに描かれた映画だ。最後に気になるところがあった。女子高生が刑事に渡したメモに何が書かれていたのか。最後まで明かされなかった。映画を観る人の感性に任されたようだ。見終わったとき、少しの哀しさと感動を覚えた。

コレクター

2010年6月10日 映画
小さな郵便局に勤める無口な青年。病的までに感じやすい神経を持っている彼は、かたくなに心を閉ざした毎日を送っている。彼の唯一の楽しみは蝶の採集だ。

毎晩、ひとり自分の部屋で収集した蝶の美しさを愛でる寂しい青年。そんな彼は、ある日素敵な蝶を発見した。きらめくように躍動する美しい蝶。それはひとりの女子学生だった。

彼は彼女を誘拐して地下室に閉じ込めた。大事に彼女を扱うけれど彼女は怖くて逃げたい。彼が美しい蝶としての彼女をひたすら愛でていたいだけなのに、彼女の逃げたい気持ちが解らなかった。

コレクターというアメリカ映画。人間と蝶を混合しては変質者的妄想でしかないだろう。彼は悪事であることを意識していないだけに恐ろしい。彼女にとって彼の行動は悪意そのものだった。

頭の上を黒いちぎれ雲が飛んだり、どんよりした雲が低く立ちこめている。
いまにも雨に濡れそうな街。灰色の街を歩いた。
「今日は、涼しいねー」
彼女は微かに笑って頷く。
「でもねー、晴れてて、爽やかなほうがいいなー。梅雨は憂鬱だな」
「うん、そうだよね。この時期、元気なのはカビくらいだよ。」

色鮮やかなパッケージが並べられた店内に入る。新作コーナーを見る。おっ、ハッピーフライトなんかもう出てるんだ。あっ、私は貝になりたいとかICHIなんかもある。はやく準新作にならないかな。

続いて、準新作コーナーに行く。もうほとんど見ちゃったなー。お、学校の怪談、めちゃ怖 「呪われた心霊フィルム」驚愕のドキュメントだって。パッケージを抜いて、海外ドラマのコーナーを見ている彼女に、「ねえ、これこれ」と見せた。そのパッケージに彼女は口元を歪めてみせ、ふと、ため息をつく。なんか、凄く色っぽくて、いい香りがする。
「それ、嫌だって、言ったじゃない」

そうか、やっぱだめか。怖いくせに見たいんだよな、こういうの。僕は学校の怪談を元のところに置いて、洋画旧作コーナーに行ってパッケージを眺めた。お、これはサスペンスかな。僕はタイトルとパッケージを見て思った。怪しい男がブラインドの隙間から女性を覗いている姿。解説にヒッチコック信者として名高いデ・パルマが「裏窓」「めまい」をモチーフにした映画と書かれていた。彼女もヒッチコックが好きだし、これにしよう。彼女と僕で選んだ5作品を借りた。

アパートに戻って、コーラーとポップコーンを用意して、DVDをノートパソコンのドライブにセットする。

不気味な音楽をバックに黄色い大きな月と狼の遠吠えがきこえた。何かが起きそうでわくわくする。吸血鬼の風貌をした男が棺桶の中で仰向けになっていた。男の顔がアップでうつり、突然、シンバルとドラムが鳴り出した。その音に、僕と彼女の体がひくっとなった。

「どうしたジェイク」誰かが吸血鬼に話かけている。ふーむ、これは撮影の現場なんだな。黄色い月もセットだったのか。口をあけた吸血鬼が、棺桶から助け出されて監督と話をしている。どうしたんだ。この俳優は持病でもあるのかな。甘い音楽が流れ始める。撮影は中断になって、力なくジェイクは車で帰宅する。すると妻が不倫相手にベッドで抱かれて悶えていた。

ひえー、最悪だな。男は怒るでもなく酒場に行ってしまうのか。僕だったらどうするだろう。その場に遭遇しなけれなわからないけど。僕も酒を飲みに行ってしまうのだろうか。でも、僕は酒が飲めないからウーロン茶でしのがなきゃ。映画出演するのにはテストがあるようで、ジェイクは仕事にありつくためにレッスンを受けるようだ。

「中は暗かった。僕は子供だった。背中の壁はとても冷たく、そして湿っている。僕は隠れていた。かくれんぼをしていたんだ。みんなが捜している。地下室の冷蔵庫。僕はその冷蔵庫にむりやり入り込み動けなくなった。怖い。声を出せば負けてしまう。兄弟と初めて仲間に入れた。助けてなんて叫んだら大笑いされてしまう。大きな赤ちゃんって」

大声で叫べと指導員が言っている。だけど彼はとうとう声が出せない。彼は閉所恐怖症だった。僕の部屋は狭いから恐怖を感じるだろうな。僕なら、サイコに出てくる洋館の大きい家に住んだら、悪寒を感じて寝れない。ジェイクは家に帰らず、偶然会った友人、サムの家に居候することになった。その家はプラネタリウムのように展望がよく望遠鏡もある。望遠鏡で面白いものが見えると言われ、覗くところは「裏窓」に似ている。

望遠鏡を覗くと、豪邸に住む美女が着替えている。彼は望遠鏡で覗くのが楽しみになった。ある日、彼女の家にインディアンの男が不法侵入するところを望遠鏡で目撃する。彼女はインディアンの男につき狙われ、ジェイクはそれを知って彼女が心配になり、彼女を助けようと尾行した。ここから事件がはじまる。僕はコーラーを飲み、画面に見入った。

さっき、インディアンと言ったけど、インディアンみたいな男だ。悪人をいかに完璧に視覚的にディテールするかで、主人公が惹き立つ。だけど悪人ばかり強調せずシチュエーション中心に構成されている。毎夜、望遠鏡でのぞいているジェイクはその女性に恋心を抱くようになる。とうとう、その女性がインディアンに殺されてしまい、あるテレビをきっかけにジェイクは独自に捜査を始める。印象に残ったのはキスをして抱きしめるシーン。そのカメラのアングルと甘美な音楽がいい。サスペンス映画だけど、ロマンティックだったな。

ぽつぽつと落ちた雨は本格的に降りだした。
これから、麻婆豆腐を作って彼女に食べてもらうんだ。
「あ、私が持ってきたトマトとキュウリでサラダを作ろーか」
それは彼女の実家の家庭菜園でとれた新鮮な野菜なんだそうだ。

ぐるりのこと
実際にあった事件の時代背景を絡めながら、夫婦の日常を描いたもの。リリー・フランキー(夫)がいい演技をしていたけど、木村多江(妻)の演技がリアルだった。子供が死んでから、鬱になって泣き叫ぶところなんか、ドキュメンタリーを観ているようだったな。やっぱり役者は凄い。

妻が鬱になってから、妻を囲む人たちも病んでいるようで、現実的で暗いシーンが続いた。この先、どうなってしまうのか。このまま病的な暗い感じで終わってしまうのか。自分で自分を壊していく妻に対して、夫はどういう態度をとるのか。夫も切れてしまうのか。でも、そうはならなかった。好きだから、愛しているから、妻を支え続けようとする夫の姿が涙ぐましかった。

超然としている、ということは、無関心とも無感覚とも違う。むしろ効果的に物事に参加するための必須条件である。他人にとって最上だと私が考えることは、私が自分の意見に執着するあまりゆがんでいることが多い。私が考える幸せを人に押しつけているからだ。自分のために望まなくなったときにはじめて、私は他の人の要求がはっきり見えるようになる。

マハトマ・ガンジー

DVDの入ったケースを開けていると、視界に何か動くのが映った。
「あ、蜘蛛」
「え、どこ」
彼女は僕をちらっと見た。
僕は「そこ」と言って蜘蛛を指さした。
彼女は蜘蛛を見て「蜘蛛って殺しちゃいけないんだよね」と言った。
ふうん、そうなんだ。僕は指で蜘蛛を掴もうとした。
蜘蛛は畳の上を逃げ回り、なかなか掴むことができない。
「あ、つぶれちゃった」
僕の指先は蜘蛛を押しつぶしていた。
一瞬にして、ぺしゃんこになった蜘蛛。
掴んで外に出そうとしたのに。

「やだ」という声を耳にしながら、僕はチリ紙で蜘蛛を拭きとった。
僕も蜘蛛を殺しちゃいけないということを誰かに聞いたことがある。
どんな理由なのか知らないけれど。
蜘蛛よ、君は死を予感することができたのか。
そんな、どうでもいいことを考えながら、パソコンにグーグーだって猫であるのDVDをセットする。
「どんな映画なんだろうね」
「君の好きな今日子が出るよ」
え?僕はそんなこと言った覚えがないのに、何か勘違いしてる。そーか、虹が消えるまでの歌がいいね、と言ったのが、いつのまにか小泉今日子がいいねになったんだ。
パソコンの液晶に、犬童一心監督の作品が映って、ジョゼと虎と魚たちや眉山なんかも紹介されていた。
「えー、知らなかった」
「あら、そう」
二作とも彼女と一緒に観ているのに、僕は忘れていた。
やがて、本編が放映され、主人公の漫画家が仕事に夢中になっていて、愛猫は静かに寝ていた。主人公が異変を感じて猫に呼びかける。サバ、ふうん、猫の名はサバか---。
いつのまにか愛猫が椅子の上で死んでいた。
主人公が吉祥寺の街を歩く。そしてペットショップで子猫のグーグーと出会って新しい生活が始まる。
「吉祥寺、行ってみたいな」
森三中が大きなメンチカツを食べるのを見ながら、僕はポテトチップスを口に放り込んだ。
「うん、そうだね」
言いながら、彼女はマイポットのお茶をすする。
吉祥寺駅の高架下、ハーモニカ横丁、ああ、何かいいな。
井の頭公園の花見風景や像のハナコ。
ん、自由の女神?吉祥寺に。あれは、冗談か何か。よく分からない。
見終わって、ほのぼのとして、しんみりする映画だと思った。

天使と悪魔

2009年5月23日 映画
「なんかー、雨ふるとか、いってたよ」
改札口から出て、突風に髪を乱した彼女が言った。
続けて改札口を出た僕は、「んー、そうだよねー。傘もってこなかったけど」と言って、Suicaをポケットにしまって、映画館まで歩く。

天使と悪魔を見終わってから、サルヴァトーレクオモでマルゲリータを食べて、そのうまさにびっくりした。風の吹きつけるテラスの席で、僕はピッツァを手づかみで食べながら、「原作と違ってたね」と言う。彼女もオイルで手をべたべたにして、「細かい違いはあったけど、最後のヘリコプターに乗るとこ、ひとりというのが、ちょっとね」そう言って、口と手についたオイルを紙でふく。

それで、つまりは、原作はセルン内部を詳しく説明されているし、(素粒子物理学の研究やWebを開発した)ラングドン教授とレオナルドの娘の淡い恋愛感情を描いていたよね。映画は映像の方がスケールを超えてたし、暗号を解く面白さとスピード感のある展開で目が離せなかったな、ということで、あまり原作と映画の違いにこだわらず、それぞれの楽しみ方をしたらいいということになった。

夜の帰途に雨は降らず、今度はあれも見たいね、これも見たいね、と言い合った。
夕方から開映の映画なのに、昼ごろには映画館の近くにいた。チケットを買って、少し遅い昼食を食べることにした。食べるものってだいたい決まってて、値段が安くてうまいものと欲張りなのだ。

日替わりランチに惹かれ、東京モダン食堂という洋風レストランに入る。店内はビートルズがガンガン流れていて、壁に東京タワーの下部分、路面電車、跳開された勝鬨橋などの白黒写真が展示されていた。テラス席もあって、明るい日差しが注がれている。もう、昭和の雰囲気満載って感じだ。

ハンバーグ、白身魚フライ、サラダ、スパゲティ、それとご飯で800円。それから街をぶらぶらして、靴や服をみて、モリバでチーズケーキとカフェラテで休憩。

ボールパークドッグとポテトフライを買って館内に入る。100席くらいの小さな映画館に誰もいない。僕たちは後ろの二人席に座って、ドックの包み紙をひらいてトマトケチャップとマスタードをへんちくりんに塗る。がさごそと包み紙がうるさいので、映画が始まる前に食べた。これで万全だろう。

夜かかる月の虹がみたくてハワイ島にきたレオと彼女。その後、レオはホノカアで暮らすようになった。レオはビー(倍賞千恵子)と出会って、お互い生活の糧となっていく。ビーはレオのために食事を作る。なんか、とてもビーが可愛かった。

ロールキャベツって、そのまま鍋で煮るのかと思ったら、焼いてから煮ていたし、ハワイのドーナツ、マラサダも食べてみたいし、そう思いながら観ていたら、キューっと音がした。隣りに座っている彼女のおなかが鳴った。初めて聞いた彼女のおなかの音。目を合わせて笑った。

人がいなければ寂しい街、人がいるから暖かい街。空と海の青さ、すすきと風の風景が切ない。え、これで終わり?もう終わり、と思ったら、本当に映画は終わってしまって、ラストに流れた小泉今日子の「虹が消えるまで」という歌にじわーっときた。
彼女とアパートの近くをぶらぶら散歩した。新しい歩道を歩いて、電車の高架をくぐると、いつのまにか大型スーパーの前にいた。スーパーで惣菜を買って、ビデオをレンタルしてアパートに戻る。

エビカツ、うずら卵フライ、白身魚フライを食パンに包んで食べて、その後、エイリアスと彼女が選んだ奇跡のシンフォニーを観ることにした。

スパイアクションのエイリアスをわくわくどきどきして観たが、このシーズン5で終わりみたいで残念。ジェニファー・ガーナーが妊娠したため、本編でもシドニーが身重でスパイをするという設定にしたというのを知って驚く。シドニーは本当に妊娠していたんだ。

さて、次に奇跡のシンフォニー。奇跡ということが宗教的で嫌いな僕は「ね、これはどんな映画?」と彼女に訊く。彼女はポップコーンの袋に手を入れたまま、「少年が両親をさがすの」と言った。へえ、両親を探すのかぁ。で、それのどこが奇跡なんだろうと思った。僕が納得していないことを悟ったのか、「あのね、音楽でさがすんだよー」と彼女はいたずらっぽく笑って、ドライブにDVDを入れた。

なんかこの映画まずいな。名前も顔も分からない両親を探し続ける、一途な想いの少年が描かれている。僕は彼女に涙をみせたことがない。人前で泣かないことを身上にしているのに。こういうの弱いんだ。

養護施設を飛び出し、ストリートミュージシャンになる少年。少年のギターに引き寄せられるように現れる父。父子、お互いに知らない2人が出会ってギターを弾く場面で、なんだか鼻の奥がつんとして、あ、やべ、不覚にも涙が。ちらっと彼女を見たら、不自然なくらい顔が赤くなってる。

そっと立ってトイレに逃げ込んで、あの場面を思い出しては感動の涙が。トイレットペーパーで涙を拭いてトイレを出る。おそかったじゃない、ビデオ止めといたわよ、と彼女は泣きながら言った。


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