繁華街の店はシャッターが下ろされていた。空に月が浮かんでいる。舗道の真ん中あたりにマンホールがある。マンホールの蓋は下水道と書かれていた。ロック野郎は鉄の棒で、下水道のマンホールの蓋をあける。蓋があいた途端、汚泥などが腐敗する悪臭が鼻を突いた。黒いマンホールの穴から、ゴキブリやチョウバエが這い出して舗道を徘徊し出した。

ロック野郎は懐中電灯で穴を照らす。僕もマンホールを覗いてみた。奥底に小さなネズミが白い物に集っていた。その白い物の正体はネズミが大好きなラードだ。マンホールの前に中華料理屋がある。そこからラードが流れてきたのだ。ラードが流れてきたところは下水管とつながっているから、ねずみは下水道と台所を出入りしているのだ。想像しただけで恐ろしい。

ネズミの数が5匹。どこかに親ネズミがいるのだろう。
「いやだな」ロック野郎はつぶやいた。

これからロック野郎は、このマンホールの中に入っていく。なぜ、中に入らなくてはならないのか。蓄積されたラードを掃除するためだ。通常は水圧で掃除をして、バキュームで吸い取ってしまう。でも、障害物や蓄積された汚泥はなかなか除去することができない。ロック野郎はなぜこの仕事をしているんだろう。彼はロックバンドを続けているが、それだけでは飯が食えないと言っていた。

しばらくして、ロック野郎がマンホールから出てきた。彼の腕にゴキブリがとまっていたので、僕は手袋でゴキブリを払い落とした。体にゴキブリがつくのは日常茶飯事で、ときには吸い上げたバキュームのホースが外れ、汚水が噴水のように溢れることがある。近くにいた者は汚水でびしょ濡れになるのだ。

どれだけ近代的なビルでも汚水や生活排水がでる。ビルなどの汚水や生活排水は、地下の汚水層、排水層に溜めてからポンプで下水管に排水される。都会の近代的な外装だけで清潔だと信じてはいけない。人間のいるところ、ゴキブリが路上を闊歩しているし、マンホールの下でネズミが蠢いている。


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