ごろごろとオットセイのように転がっていた。やっと朝食をすませて山崎ナオコーラの本を読んでいたら、うつらうつらして、いつのまにか寝入ってしまったらしい。本のしおりがわりに挟んだ指が押し花のようになって痛い。まぬけだ。
外は雨が降っていて、地面に水溜りができていた。ひと雨ごとに暖かくなっていく。暖かくなるのはいいけれど、どうも虫の存在は苦手だな。網戸にひょろっとした蝿が1匹とまっていた。いやだな。蝿や蚊はなんとか。でも黒いヤツは考えただけでぞくっと身震いがする。
すぐに雨はやんで風が吹いた。そろそろ暖房器具をしまうかな。どうだろう。また寒くなったりするんじゃないか。もう少し様子をみよう。
午後、まだ一度も行ったことのない商店街で買物をする。帰る途中、「うわー、すげー!」と僕は思わず声をあげる。空に映える桃の花。枝に沿ってびっしりと花がついて、まるでピンクの絨毯を敷きつめたと比喩されるとおりだ。
濃い桃の花の前で露天商が出ていた。通りかかった僕に、おばさんが何か言った。おばさんはバナナを折った形状のものを差し出したので僕はそれを口の中に入れてみた。噛んでみるとタクアンの味がした。ほくそ笑むおばさんに、これはタクアンではないのかと訊いた。
おばさんはビニールの手袋を手にはめて、鉢に入っていた草の根元をつかんで引っこ抜いた。グロテスクな根元を僕に見せて、「これ、ケーショ、ケーショ」と言った。
え!何を言っているのかわからない。どうも日本語の使い方がおかしい。中国人か韓国人なのか。おばさんはゴソゴソと台の下から紙をとりだして僕に見せた。
「花の茎から液体が滲みだして、それ凝固します。洞窟つららのように、茎の液体は時間をかけて根に沁み込んでふくらんで大きくなるです。やがて花は溶けて葉と根が残って。弾力があって、そう、まるでタクアンみたいです。精力!精力!増強!」
日本語でそのようなことが書いてあった。僕はタクアンのようなものなんだなと勝手に推察して、おばさんにタクアンと言った。
「タクアンない。マンドラゴラ、マンドラゴラ」
「えっ、マ、マ、マ…」僕は面倒になってどうでもよくなった。
やれやれ、僕は手を左右に振って、ジーパンのポッケに手を突っ込んで水溜りを飛び越えた。
外は雨が降っていて、地面に水溜りができていた。ひと雨ごとに暖かくなっていく。暖かくなるのはいいけれど、どうも虫の存在は苦手だな。網戸にひょろっとした蝿が1匹とまっていた。いやだな。蝿や蚊はなんとか。でも黒いヤツは考えただけでぞくっと身震いがする。
すぐに雨はやんで風が吹いた。そろそろ暖房器具をしまうかな。どうだろう。また寒くなったりするんじゃないか。もう少し様子をみよう。
午後、まだ一度も行ったことのない商店街で買物をする。帰る途中、「うわー、すげー!」と僕は思わず声をあげる。空に映える桃の花。枝に沿ってびっしりと花がついて、まるでピンクの絨毯を敷きつめたと比喩されるとおりだ。
濃い桃の花の前で露天商が出ていた。通りかかった僕に、おばさんが何か言った。おばさんはバナナを折った形状のものを差し出したので僕はそれを口の中に入れてみた。噛んでみるとタクアンの味がした。ほくそ笑むおばさんに、これはタクアンではないのかと訊いた。
おばさんはビニールの手袋を手にはめて、鉢に入っていた草の根元をつかんで引っこ抜いた。グロテスクな根元を僕に見せて、「これ、ケーショ、ケーショ」と言った。
え!何を言っているのかわからない。どうも日本語の使い方がおかしい。中国人か韓国人なのか。おばさんはゴソゴソと台の下から紙をとりだして僕に見せた。
「花の茎から液体が滲みだして、それ凝固します。洞窟つららのように、茎の液体は時間をかけて根に沁み込んでふくらんで大きくなるです。やがて花は溶けて葉と根が残って。弾力があって、そう、まるでタクアンみたいです。精力!精力!増強!」
日本語でそのようなことが書いてあった。僕はタクアンのようなものなんだなと勝手に推察して、おばさんにタクアンと言った。
「タクアンない。マンドラゴラ、マンドラゴラ」
「えっ、マ、マ、マ…」僕は面倒になってどうでもよくなった。
やれやれ、僕は手を左右に振って、ジーパンのポッケに手を突っ込んで水溜りを飛び越えた。
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