コーヒーを飲もうと思って、棚の扉をあけてコーヒーの瓶をとり出したときに、電話がかかってきた。瓶を机の上に置いて、受話器をとった。

「やあ、ひさしぶり。元気でいる」以前、僕が勤めていた会社の社長だった。
「はい」何の用事だろう。
「ところで最近、山根くんと連絡とってる?」
「いえ、ありませんけど」僕は答えた。
「実はね、今困っているんだ。山根が会社の金を使い込んで行方がわからないんだよ」社長は怒鳴るようにしゃべっている。
「えー!」僕は唖然とした。金を使い込んだ、行方不明、あの山根さんが。
「山根が出勤しないので自宅に電話すると、奥さんが出て、夫が家を出て行ったと泣きながら言うんだ。このままだと夫の収入は途絶えるし、子供は学校に通っているし、どうやって生活すればいいのか途方に暮れている。探し出して欲しいと頼まれたんだ」

人を気遣う、優しい山根さんが金を使い込んで家出するなんてさ。何かの間違いじゃないのかな。

「連絡があったら電話します」と言って、僕は電話を切った。山根さんはどこに行ったのだろう。失踪して10日が経っているらしい。そうだ。電話してみよう。彼のケータイに電話したが、留守電だった。それでメールを送ってみた。返事が来るといいな。

すっかり忘れていた瓶のフタを外して、顆粒をカップに入れ、熱い湯を注いだ。ゆらゆらと白い湯気がたちのぼり、山根さんもコーヒーが好きだったことを思い出した。


コメント

りいふ
りいふ
2009年3月24日0:23

初めまして。かくのさんの書く文章がとても素敵だったので勝手にリンクさせていただきました。
これからも素敵な文章書いてください。
突然失礼いたしました。

かくの
2009年3月24日13:06

はじめまして。
お褒め頂いてうれしいです。
リンクありがとうございます。

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