たまに激しく吹く南風に揺すられた枝から、花びらが舞う。僕はハンカチで額の汗を拭い、山根さんと待合わせの場所に向かう。カウベルがカランとして、店内に入ってフレッシュネスバーガーとペプシを注文して、彼と向い合せの椅子に座った。簡単な社交辞令の後、「どうですか?仕事は」と彼に訊いた。
あれから彼は中古住宅や家庭用生ゴミ器を売るような仕事をしていて、それはどうも一攫千金みたいなところがあって、住宅が売れば、その何割かの収入が入ってくるが、売れなければ1銭にもならないそうだ。今の時世、どんな仕事でもあればいいが、もう少し実質的に金になる仕事をした方がいいと思ってしまう。
「そうそう、こないだ、家庭用の生ゴミを裁断する装置が1台売れてね。1割だから、1万ちょっと稼いだかな」彼は楽天的だ。ふーむ、それじゃ普通の生活をするのに何台売らなくちゃならないのか、と僕は考える。
「それと、ユーザーに頼まれたプログラムを作っていて、で、3万くらい貰った」
僕はバーガーを頬ばり、ストローでペプシを啜った。このバーガーのバンズは北海道の栗かぼちゃが練りこんであるらしい。そしてビーフ100%のパティと厚切りトマト、特製ミートソースがサンドされている。僕の好きなバーガーだ。
「アパートみたいな場所を借りた方がいいですよね」このまま知人の家に間借りしているわけにもいかないし、どれだけ善意な人でもいつか迷惑に思うし。そう彼に苦言をして、彼の顔を見た。
「うん、わかってる」
「社長や奥さんと話したんですか?」
「どうしてこっちから頭を下げなきゃならんの。むこうが家を出て行けと言ったのに」彼は目を剥いた。
驚くほどの強風が吹いて、店の窓ガラスを震わせた。遠く子供の声、自転車のベルの音、人通りの多い舗道。のどかな、平和な昼下がり。どうして僕たちはこんな話をしなくちゃならないのかと思った。どうも険悪な雰囲気だ。僕はハンバーガーのソースで口元を汚しながらペプシを流し込む。
彼が家の頭金として社長に借りた400万。その家のローンの残金。奥さんの慰謝料と子供の養育費。そんな意地の張り合いをしている次元の問題じゃないよなー。人は弱くて、みっともなくて、愚かだけど、それでも信じられる道を歩いていくんじゃないか。ちょうど太平洋の真ん中を、羅針盤も目的もなく、ボートを必死で漕いで、いったい彼はどこに向かおうとしているのか。
ずっと彼はコーヒーを見つめ続けるのではないかと思った。何かを考えている彼の顔にそばかすをみつけた。増えたなと思った。シミやそばかすを気にせず、海で遊んだことを思い出す。彼は釣りが好きで、一緒に何度か釣りに行ったことがある。なぜか僕の方がいっぱい魚を釣ってしまって、そろそろ混むから帰りましょうというのに、遅くまで意地になって釣りをした彼。負けず嫌いなんだな。
何人かのお客さんが来ては、好みのものを食べて帰って行った。僕は店内に流れるヒア・カムズ・ザ・サンを聴きながら、コップに溶けた氷の水をストローで啜る。まったく、と思って、話題を変えた。たわいもないことを話しながら何時間もハンバーガーショップに座っていた。そして、このたわいない日常の些事が人には大切なことのように思えるのだ。
「もう少し、したら、何とかするよ」彼はやわらかく笑った。そして、もう二度と結婚なんかしない、一生独身で暮らすんだと言った。でも未来のことなんか分からない。これからだって、好きな人が現れるかも知れない。僕たちに起きる偶然はいつも必然性と繋がっていて、それは、なるべくしてなったことで、止めることなんて誰にもできやしないんだろう。
山根さんが洗濯をしたいと言った。それなら近くにランドリーがあるからと案内した。僕がいつも行っているランドリーだ。彼は大きな紙袋から洗濯物を洗濯機につっこむと、僕の隣に座った。ここは日当たりがいい。午後の日差しがベンチに注ぐ。彼は鼻歌をうたい、眩しそうに太陽を仰ぎ見ている。
あれから彼は中古住宅や家庭用生ゴミ器を売るような仕事をしていて、それはどうも一攫千金みたいなところがあって、住宅が売れば、その何割かの収入が入ってくるが、売れなければ1銭にもならないそうだ。今の時世、どんな仕事でもあればいいが、もう少し実質的に金になる仕事をした方がいいと思ってしまう。
「そうそう、こないだ、家庭用の生ゴミを裁断する装置が1台売れてね。1割だから、1万ちょっと稼いだかな」彼は楽天的だ。ふーむ、それじゃ普通の生活をするのに何台売らなくちゃならないのか、と僕は考える。
「それと、ユーザーに頼まれたプログラムを作っていて、で、3万くらい貰った」
僕はバーガーを頬ばり、ストローでペプシを啜った。このバーガーのバンズは北海道の栗かぼちゃが練りこんであるらしい。そしてビーフ100%のパティと厚切りトマト、特製ミートソースがサンドされている。僕の好きなバーガーだ。
「アパートみたいな場所を借りた方がいいですよね」このまま知人の家に間借りしているわけにもいかないし、どれだけ善意な人でもいつか迷惑に思うし。そう彼に苦言をして、彼の顔を見た。
「うん、わかってる」
「社長や奥さんと話したんですか?」
「どうしてこっちから頭を下げなきゃならんの。むこうが家を出て行けと言ったのに」彼は目を剥いた。
驚くほどの強風が吹いて、店の窓ガラスを震わせた。遠く子供の声、自転車のベルの音、人通りの多い舗道。のどかな、平和な昼下がり。どうして僕たちはこんな話をしなくちゃならないのかと思った。どうも険悪な雰囲気だ。僕はハンバーガーのソースで口元を汚しながらペプシを流し込む。
彼が家の頭金として社長に借りた400万。その家のローンの残金。奥さんの慰謝料と子供の養育費。そんな意地の張り合いをしている次元の問題じゃないよなー。人は弱くて、みっともなくて、愚かだけど、それでも信じられる道を歩いていくんじゃないか。ちょうど太平洋の真ん中を、羅針盤も目的もなく、ボートを必死で漕いで、いったい彼はどこに向かおうとしているのか。
ずっと彼はコーヒーを見つめ続けるのではないかと思った。何かを考えている彼の顔にそばかすをみつけた。増えたなと思った。シミやそばかすを気にせず、海で遊んだことを思い出す。彼は釣りが好きで、一緒に何度か釣りに行ったことがある。なぜか僕の方がいっぱい魚を釣ってしまって、そろそろ混むから帰りましょうというのに、遅くまで意地になって釣りをした彼。負けず嫌いなんだな。
何人かのお客さんが来ては、好みのものを食べて帰って行った。僕は店内に流れるヒア・カムズ・ザ・サンを聴きながら、コップに溶けた氷の水をストローで啜る。まったく、と思って、話題を変えた。たわいもないことを話しながら何時間もハンバーガーショップに座っていた。そして、このたわいない日常の些事が人には大切なことのように思えるのだ。
「もう少し、したら、何とかするよ」彼はやわらかく笑った。そして、もう二度と結婚なんかしない、一生独身で暮らすんだと言った。でも未来のことなんか分からない。これからだって、好きな人が現れるかも知れない。僕たちに起きる偶然はいつも必然性と繋がっていて、それは、なるべくしてなったことで、止めることなんて誰にもできやしないんだろう。
山根さんが洗濯をしたいと言った。それなら近くにランドリーがあるからと案内した。僕がいつも行っているランドリーだ。彼は大きな紙袋から洗濯物を洗濯機につっこむと、僕の隣に座った。ここは日当たりがいい。午後の日差しがベンチに注ぐ。彼は鼻歌をうたい、眩しそうに太陽を仰ぎ見ている。
コメント
人は現実の重さの受け皿が許容範囲を超えた時点で
耐えきれずに「開き直る」タイプの人も多く見られますよね~
回りは迷惑千万で無責任としか見えないけどね(←あ、私だ)
かくのさんは直接的に迷惑掛けられてない第三者だけど
トバッチリが及ばない事を祈りま~す。
と、第四者の私が言うかぁ~ですね(^^;
もうどうでもよくなってしまったんですね。
何かと手助けしたいと思ってますが、彼の人生ですから。