資材を保管する倉庫があって、その倉庫からラジオが流れていた。誰かさんがリクエストしたホテル・カリフォルニアを聴きながら、僕は倉庫から広がる雲を見た。白い雲はとてもきれいで、なぜか、カリフォルニアの空はどんなふうなんだろう、もっともっと青いのかな、とカリフォルニアに行ってみたいような誘惑にかられた。歯切れのよいサウンドが空にひろがって、子供の頃に見た、土手の空と雲を思い浮かべて、ちょっと、その辺の道端で寝転びたい気分だ。

来客は絶えることなく、午後から駐車場は満車状態で、路上を漂う人が増え出した。
「ちょっと、手を貸してもらえる?」頭髪の薄くなったおじさんに声をかけられた。おじさんの後をついて行くと、溝わきの細い空き地に車がバックで止まり、後ろの右タイヤが溝に落ちていた。やれやれ、と僕はため息をついた。そこは溝の蓋が割れていて、タイヤが落ちるから、ここは止めないように注意していた場所だったし、だいたい、そこは駐車場じゃないじゃん。

僕は藤木を呼んで、三人で車体を持ち上げた。タイヤは溝から出て、少し車が前に動いたので、その拍子にタイヤのぬけたところに僕の右足が落ちてしまった。僕は転んで腰と手をコンクリートにぶつけた。なんて、間抜けだ。立ち上がって服についた汚れをはらっていると、他のお客が、「車を置くところがないのだが、どうすればいいのか」と尋ねてきた。僕は痛みに堪えながら、どうすればいいのかを説明した。その間に、先ほどのおじさんは礼も言わずに車と一緒に消えていた。

何台も駐車場から車が出たあとに、何かが砂利の上で動いてるのに気づいた。近づいてみると、それはただのゴミで、風でゆらいでいたのだった。ふーむ、自分で出したゴミくらい、ちゃんとゴミ箱に捨てたらどうなんだ。駐車場に備え付けのゴミ箱が設置されているのに、路上に投げていく無責任な人が多い。そういう人がこれからどういう道を歩んでいくのか。人前では善人を装って、見えないところで舌を出して笑っているような生き方をするんだろうか。ゴミを拾ってゴミ箱に捨て、ふと、路上や駐車場に見やれば、悪魔も手がつけようにない煙草の吸殻が投げ捨てられているのに気づいた。

野球少年がにこにこしながら、自転車を僕の前に止めた。小学生の頃から近くのグランドで野球をするために通るのだ。もう少年も中学生で、少し大人になった。真っ黒に日焼けしている少年は、後輩の練習試合の審判をした帰りだと言って、なにやらケータイを出し、「曲名を当てて」と僕に着メロを聞かせた。これは確かに聴いた曲だけど、仕事をしながらじゃ身が入らない。「じゃあ、これは」と少年は次々と着メロを鳴らした。結局、僕はひとつも曲名を当てることができなくて、「それじゃ今日は用事があるから」と少年は自転車に乗って帰った。

それから多くの人が僕に話しかけては去っていった。日は少しずつ傾いて、看板の影が僕の体を包み、駐車場に止めた車のボディが、西日を受けて眩しく光っている。やがて外灯がともり、僕は暗闇に残された。倉庫のラジオからは、馬鹿みたいに笑い転げる女の声がした。

コメント

ラクス
2009年5月27日22:29

【かくのさ~ん】

仕事で日に何人もの人と接触があるんだね~
ニートで唯一同居人としか話さない私には羨ましいような
大変だろうな~なような
毎日の事だから、何気なく見過ごしてしまえばそれっきりだけど
かくの君みたく人間観察が好きな人から見ると、また切り口が変わって
毎日が刺激的に思えるんだろうね。

あー!なんだか働きたくなってきちゃったぃ(><)

かくの
2009年5月27日22:39

何でも客観的に見るようになっちゃって、
自分の感情があまり出ないんです。
少しずつ、ロボット化してるみたい。

ラクスさん、自分に合ったこと、してくださいな。

りいふ
りいふ
2009年5月28日13:54

上のコメントを読んで→かくのさんの感情的な日記も読んでみたいですね^^

かくの
2009年5月28日15:12

うっ・・・・・・。
むり、むり、そんな、書けませーん。

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