自販機で買ったコーヒーを藤木に渡すと、「さむいね」と言って体を小刻みに震わせた。どんよりした雲の下で、もう少し厚着をしてくるんだったと後悔する。「ああさむいね」と答え、雨に濡れて、赤く腫れた手に息を吹きかける。そこに親子が歩いてきた。
「いらっしゃいませ、こんにちは」と挨拶をして、親子にお辞儀をした。一瞬、藤木は親子に視線を移して微かに笑う。どうしたのかと藤木に目をやると、親子が似ていると囁いて、にやにやした。

店内に消えていった親子は、どことなく悲愴な面持ちだったので、そのことに僕は気をとられていた。買うもので、母親と中学生くらいの娘が口論でもしたのか。こうして人や車の動きを観察して、世間の動向と傾向を予感した人がいた。サリン事件のとき、いつかこういうことが起きるのではと地下鉄職員が予想していた。ホームの掃除をしているところに煙草の吸殻を投げ捨てたり、線路に不要になった紙くずを捨てる。そういったことを観察することで社会情勢が分かるらしい。時間の流れが速く感じるこの頃、何も分からず、僕は立ち尽くしているだけだ。

「似てたね。双子みたい」愉快そうに藤木は言った。人間の細胞のひとつひとつのDNAには六十臆語の遺伝言語があって、その精密な設計図により必要なタンパク質が作られ、人間の体ができている。デオキシリ核酸という遺伝子が、親に似せるそうだ。同じ環境で育つわけだから、容姿だけでなく性格や仕種も似るんだろうかね。

コメント

ラクス
2009年5月30日22:43

【かくのさ~ん】

うー(><)ほんと、ここ2~3日は冷たい雨だよね~
風邪など引かぬように気を付けて下され。

Aは「顔が似ている・だから愉快」
Bは「どんな表情だったか・その気持ちまで思い遣る」

うーん
人によって着目の観察眼が違うんだね~興味深いものがアルゎ~(^^)
じゃあ、私なら・・・と今宵は考えてみようと思うw

かくの
2009年5月30日22:50

ラクスさん、ありがとう。

人それぞれ、の感性だねー。
ラクスさんならどんなことを考えるんですかね。

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