まず祈祷師の一家が複雑である。父と母は実の兄弟で、二人の娘のうち、高校生の和花は母の実の娘だ。中学生の春永は家族の誰とも血がつながっていない。

春永が生まれたときに実の父親は死んだ。母親は再婚して娘の春永を祈祷師に託した。祈祷師の母は八年前に死んだお婆ちゃんのあとを継いで二代目の祈祷師になった。父も姉の和花も不思議な力をもっている。けれどもヒロインの春永は母の仕事を手伝うが、その力がない。

ある夏休み、春永が誰もいない家で昼寝をしているとき、お祓いをしてもらいに十歳の子供が母親に連れられてきた。白目を剥いて涎をたらして暴れる子供に、懸命になって春永はお題目を唱えた。けれど子供は暴れ続けた。

そこに両親が戻ってきて、そのお祓いによって子供は元に戻った。春永は自分がなんの力も持っていないことを知った。両親や姉の持つ力が自分だけ備わっていない。霊が見えたりすると、世間では気持ち悪いとか化け物と言われる。祈祷師の娘として育った春永は祈祷師になりたかった。化け物になりたかった。

霊にとり憑かれた人の霊を祓うのが祈祷師。まわりには霊がわんさかといて、その霊が優しくて純粋な人にとり憑くらしい。そういわれても、僕は自分の目で見ることができないので、どうしても信じることができない。見えないものでも存在することがあるとわかっていても。

母が再婚していなくなったときのことを知った春永に、お婆ちゃんが優しく語りかける言葉が印象的だ。


「お母さんいっちゃったなあ」
わたしはうなずいた。その瞬間、涙がどっとあふれてきた。わたしは声を出さずに泣いた。おばあちゃんはそんなわたしを見下ろしながら、静かに、まるでひとりごとのようにつぶやいた。
「けどもな、人間っていうものはけっきょくひとりで生きでいぐもんだかんな、いつかはひとりになるときがくんだよ。そう思ったら春永だって、いまからがんばって生きていけっぺ?」
わたしはおばあちゃんの顔を見上げた。おばあちゃんはぶよぶよの指先でわたしの涙を拭ってくれた。
「ほら、いまここにきてるひとらはな、みんなひとりぼっちでいぎてんだぞ。春永が思いもつかねえぐれえ。それこそ考えられねえぐれえなげえじかんを」
わたしはもう一度座敷を見回した。一枚一枚のざぶとんの上にひとりひとりがすわって、こちらを見ているように思えた。そのひとたちがわたしをなぐさめてくれているように思えた。

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