梅雨どき

蒸し暑いので、パジャマを着ないで寝ている。夜明けに寒いなと感じることがあるけど、眠気が勝って死んだように動けない。そのせいか、朝から腹の調子がよくない。

「なんかさー、じめじめしてるね。梅雨あけないかな」
梅雨入りしたばかりなのに、もう彼女は雨にうんざりしている。僕だってそうさ。畳に寝転がっても、畳がじめっとして足や腕に張り付く感じがするし、食べ物にも気をつけなくっちゃならない。こないだ、昼の弁当を夕飯に食べたら、何だかブロッコリーが変な匂いを放ってたな。食べちゃったけどさ。

「じゃあさ、スーパーに行こうか」
昼下がり、雨は上がっていた。彼女とメールの後、僕はジーパンと青のシャツに着替えて外に飛び出た。湿った空気を吸い込んで、水溜りを飛び越え、濡れた大地を歩いた。彼女は大手スーパーの前に立っていた。彼女は、ぱたぱたとサンダルの音をさせながら僕に向かって歩く。屈託のない様子で柔らかく笑う。いつも僕は彼女の笑いに癒されるんだ。

スーパーに入った途端、寒いと感じた。
「あー、腹が」
じゃ、ここで待ってるという彼女の声を背に、僕はトイレをめざした。
あ、波状攻撃のように襲ってくる便意。寒いはずなのに、汗をびっしょりかいてトイレのドアを開けた。ひえー、便器にアメーバ状にひっついた汚物が。はやる気持ちをおさえ、隣りのドアを開いた。そこには、流してくれるのをじっと待っている、大きな固まり。僕は階段を三段跳びのように上がって、次のトイレに向かった。ふぇー、死ぬかと思った。あやまって汚すこともあるだろうけど、なぜ、そのままにしておくんだろう。後から使う人のことを考えて、ちゃんと始末してほしいな。そんなことを思いながら、無事、着陸することができた。

「なんか、遅くない？」
「あ、いや」
僕は逡巡しながらトイレの説明をした。
「自分の体から出たもんじゃない。ちゃんと掃除しなくちゃね」
そう言いながら彼女は笑った。梅雨どきはトイレもご用心。