その硝子は透き通っていた。硝子の向こうに女性が淋しそうに、薄茶色のレンガの上に座っていた。僕は話をしてみたいと思った。でも、何を話せばいいんだろう。どうも照れくさくて、しばらく女性を見ていたが、僕はどうしても黙っていられず、勇気をだして声をかけた。

「あの……」声が小さかったのか、女性は花を見たまま動かない。
「あの」今度は大きい声を出した。
女性は花壇の黄色い花に心を奪われているのか。満足感に浸っているようだ。僕は硝子の前で女性をみつめた。そして、硝子に手のひらを合わせた。冷たい硝子は、僕の体温を少しずつ奪っていく。

僕は硝子を叩きたい衝動にかられる。実際、僕は硝子を少しだけ叩いた。こつんと音がして、女性が初めてこちらを向いた。別に驚いた様子もなく、女性は僕を見て微笑んだ。その微笑みはどことなく淋しさが漂っていた。僕は硝子の中に入りたいと思った。いったいどこから入ればいいんだろう。入口をさがす僕の挙動不審な様子を鑑みて、女性は立った。

「私の心の中にあるのよ」と言い、僕の方に近づいてきた。
「ねえ、私が何を言っても信じてくれる?」女性は僕の前で立ち止まった。
細い声だが、女性の力強い意思を感じた。僕は動揺した。いったい、これからどんな話をするというんだ。僕はひとめで女性に恋心をもってしまった。もうあとには退けない。女性のためなら何でもしようと思っている。

「私、人を殺したことがあるのよ」
ころした?人を。
転がしたの間違いじゃないのか、と僕は思った。
「殺意がなくたって、人は人を殺せるものよ」
「どういうこと?」
女性はそれっきり黙った。深い沈黙が下りた。

どんなことを聞いたって変わりはしないさ、と僕は心でそう思った。言葉は口から出た途端に過去のものになっていく。だから僕は言葉に出すことが不安だった。
女性を見ていた僕は、胸の奥が痛くなって涙が出た。どうして僕は泣いているんだろう。透き通った硝子は悲しみのブルーに染まった。見えなくなっていく女性。僕は硝子に身をあずけてうなだれた。硝子は天体のかけらのようにきらきらと光った。
そして目が覚めた。

コメント

ラクス
2009年7月1日0:40

【かくの君~♪】

連載のカテゴリーにあるって事は続くのかな~(^^)

夢で見たとか言うオチで終わっちゃうのかな~(--)

私ね、夢占いとか夢診断とか夢深層心理とか一切信じない人だからねw
夢に何かメッセージ性とか予言やお告げみたいに重きを置く人には
申し訳ないけどね(^^;

かくの
2009年7月1日0:50

はーい、ラクスさん。
ショートの連載なので繋がってないんです。期待どおり、夢で見たというオチなんです。ははは…。

夢ってなんなのか、よく分かりませんけど、占い全般、信じないようにしてます。

アンポタン
2009年7月1日3:06

野暮なことを書こうと思ったけど止めちゃいました。 ふふっ。

かくの
2009年7月1日6:58

うわー、なんか、危険。これは夢の話ですからね。ふふ。

ねーこ
2009年7月1日9:05

う~ん…
深い夢だなぁ。
何を意味するんだろう。

あたし、夢占いとか基本的に信じないけど何か意味あるものと思ってしまうわぁ。
あ、でも霊感はあんだよねヾ(´▽`;)ゝエヘヘ
ずいぶん弱くなったけど。。。。

かくの
2009年7月1日13:04

ほい、何だろうね、意味があるんだろうか。はいじさん、霊感あるんですか。いやー、聞きたいなー。そういう話大好きです。

りいふ
りいふ
2009年7月1日15:49

夢って面白いですよねー。
いろいろな内容見れるので私の一種の娯楽となっています。
ただ、自分でコントロールできないのが玉にキズ。

かくの
2009年7月1日16:43

ほー、楽しい夢だったらいいですね。
近未来は夢をコントロールして見ることができるかも。
そうなったら、ぼくは空を自由に飛ぶ夢をみたいな。

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