道を歩いていると服が湿った感じになる。じめじめした梅雨が続いて洗濯物が乾かない。洗濯物を中干しすると匂いが気になる。何にもいいことがないな、と思いながら、僕は片手をポケットに突っ込んで、ふらふらと家と家の路地を歩く。
大通りを出たところで、「早い、うまい、安い」と書かれた看板があった。何かの料理屋かと思ったら床屋だった。へえー、いつのまに店ができたんだ?黄色い壁の窓に、二千円と書かれた紙が貼ってあった。僕は料金に惹かれて店に入った。スタッフの女性が客の髪を切っている。客はその人だけで、待っている人はいない。
「いらっしゃいませ」
女性は後ろをふり向いて言った。僕はちょっと頭を下げて、長椅子に腰を下ろし雑誌に手をのばした。待っているあいだ、雑誌や漫画を読むのが好きだ。週刊新潮の表紙をひろげて目次に目を落としたとき、店の奥から掃除用具を持ったおじさんが現れ、店内の床を箒で掃き始めた。
「あ、お客さんがいたんだ」
おじさんは驚いたように僕を見て、箒を隅に置き、へらへらと笑った。彼に案内されて、僕は鏡の前の椅子に座る。
「どういうふうにしますか」
僕は鏡の彼に、「スポーツ刈りにしてください」と答えた。
鏡にうつるおじさんを観察した。黒のプリントTシャツにベージュの綿ズボンをだらしなく着て、髪の毛の薄い坊主頭、あごに不精髭を生やしてる。僕はダルマを想像した。
「今日も、雨、ふりますかね」
バリカンで後ろの髪をすくいながら彼が言った。
「そうですね。梅雨ですからね」
鏡の中の自分を見ながら答える。
「ぶっ、ぶっはっは!梅雨、梅雨」
何がおかしいのか。舌なめずりしながら彼がそう言ったとき、彼の口から唾が跳び、その唾が信じられないことに僕の頭にかかった。「あ、汚ねえな」と僕は心の中で叫ぶ。まったく電光石火の直撃で避けることができない。
「つゆ、ゆううつ」
彼は屈託のない様子で話を続ける。いま、唾が跳んだんだ、と喉まで出かかった言葉を僕はのみ込む。ふん、駄洒落が言いたかったのか。それ、駄洒落にもなってないよ。僕は半ば呆れ、何を話していいのか分からなくなった。
彼は愛想笑いを浮かべて、
「どこ、お住まいは?」
僕は曖昧に「はあ、すぐそこ」と答える。
バリカンの刃を交換して、「こう湿気が多いと、何でも足が早いですよね」と前の髪を切る。
「はあ、何か腐ったの?」
僕は気のない返事をする。
「わたしの体。生ものだけに、もう半分腐りかけてる。ぶっ」と、彼は涙ぐんでる。
なに、ばかなこといってんだ。僕はやれやれとため息をついた。彼が僕と視線を合わせようとするとき、僕は目を閉じて寝たふり。そう、寡黙な人になった。
彼は何度もバリカンの刃を交換して、髪の毛を切って、やがてハサミで前髪を切り、髭をそる。それが終わると髪を洗う場所に移動した。髪を切るところと髪を洗うところが違う。店に入ったとき挨拶した女性が僕の髪を洗った。
「二千円になります」女性は僕に言った。僕は千円札を二枚出して、安ければいいというものでもないなと思った。外はすっかり暗くなっていた。寒い空気の中、腕をさすりながら歩いた。
大通りを出たところで、「早い、うまい、安い」と書かれた看板があった。何かの料理屋かと思ったら床屋だった。へえー、いつのまに店ができたんだ?黄色い壁の窓に、二千円と書かれた紙が貼ってあった。僕は料金に惹かれて店に入った。スタッフの女性が客の髪を切っている。客はその人だけで、待っている人はいない。
「いらっしゃいませ」
女性は後ろをふり向いて言った。僕はちょっと頭を下げて、長椅子に腰を下ろし雑誌に手をのばした。待っているあいだ、雑誌や漫画を読むのが好きだ。週刊新潮の表紙をひろげて目次に目を落としたとき、店の奥から掃除用具を持ったおじさんが現れ、店内の床を箒で掃き始めた。
「あ、お客さんがいたんだ」
おじさんは驚いたように僕を見て、箒を隅に置き、へらへらと笑った。彼に案内されて、僕は鏡の前の椅子に座る。
「どういうふうにしますか」
僕は鏡の彼に、「スポーツ刈りにしてください」と答えた。
鏡にうつるおじさんを観察した。黒のプリントTシャツにベージュの綿ズボンをだらしなく着て、髪の毛の薄い坊主頭、あごに不精髭を生やしてる。僕はダルマを想像した。
「今日も、雨、ふりますかね」
バリカンで後ろの髪をすくいながら彼が言った。
「そうですね。梅雨ですからね」
鏡の中の自分を見ながら答える。
「ぶっ、ぶっはっは!梅雨、梅雨」
何がおかしいのか。舌なめずりしながら彼がそう言ったとき、彼の口から唾が跳び、その唾が信じられないことに僕の頭にかかった。「あ、汚ねえな」と僕は心の中で叫ぶ。まったく電光石火の直撃で避けることができない。
「つゆ、ゆううつ」
彼は屈託のない様子で話を続ける。いま、唾が跳んだんだ、と喉まで出かかった言葉を僕はのみ込む。ふん、駄洒落が言いたかったのか。それ、駄洒落にもなってないよ。僕は半ば呆れ、何を話していいのか分からなくなった。
彼は愛想笑いを浮かべて、
「どこ、お住まいは?」
僕は曖昧に「はあ、すぐそこ」と答える。
バリカンの刃を交換して、「こう湿気が多いと、何でも足が早いですよね」と前の髪を切る。
「はあ、何か腐ったの?」
僕は気のない返事をする。
「わたしの体。生ものだけに、もう半分腐りかけてる。ぶっ」と、彼は涙ぐんでる。
なに、ばかなこといってんだ。僕はやれやれとため息をついた。彼が僕と視線を合わせようとするとき、僕は目を閉じて寝たふり。そう、寡黙な人になった。
彼は何度もバリカンの刃を交換して、髪の毛を切って、やがてハサミで前髪を切り、髭をそる。それが終わると髪を洗う場所に移動した。髪を切るところと髪を洗うところが違う。店に入ったとき挨拶した女性が僕の髪を洗った。
「二千円になります」女性は僕に言った。僕は千円札を二枚出して、安ければいいというものでもないなと思った。外はすっかり暗くなっていた。寒い空気の中、腕をさすりながら歩いた。
コメント
実話なら…や~ね、そんなお店…
あたしも今日美容院へいくんだぁ。
今度ゆっくり聞かせるわ。
霊感話。。。。。
かくのさん 今の髪型はスポーツ刈りなんですねっ!!!!!
なら信じます。
・・・で、スポーツ刈りってどんな髪型??
かくのさん≠スポーツ刈り のイメージなんだけど。。。
かくのさんという人間がでんでん掴めない。
実話でーす。
ゆっくり歩いて10分くらいのところに床屋ができました。普通、6千円するんですけど、値段が安いので、試しにやってもらったのです。それなりの店でした。
へえー、美容院行って、ますますきれいになってください。
霊感、いつか教えてね。
暑い夏はスポーツ刈りでーす。スポーツ刈りはですね、えーと、俳優でいうなら、鶴見辰吾みたいな髪型かなー。え、ぼくのイメージって、どんな。ぼくも自分がよくわからない。ふふん。
雨がふって壁が濡れてます。
2千円は高いよ~~~
同居人なんか1000円カットの店よん(^^v
私なんか娘のカットでタダよwww
なんだかなぁ~
なんだなんだその生きる屍のような妖怪ヲヤジはっ!
あーこっちまでカビちゃうゎよん(><)
くわばらくわばら
いるいるーこーいう人
美容院とか床屋ってリラックスしにいく所だと私は思うのです
こっちはどーでもいいことずーーっと話してきて
どっちが客なの?みたいな美容師さんもきついですよぉー
おまけに宿直明けの平日に行くから顔覚えられてて「いつも通りに切って下さい」で通じてしまいます。
切りながら他愛もない話に乗ってあげますが、かくのさんが行った床屋さんみたいな駄洒落はないですね。