雨が降ったせいか、べっとりした暑さが全身をつつむ。さいたま市のぼんやりした空は日食で暗いのか、雲に覆われて暗いのか分からない。合羽を着たまま、僕は住宅地の辻で通る車の誘導をしていた。作業員は住宅の小さな管のふたを開けてから、汚水マンホールからジェットを入れた。水圧で管をきれいに掃除するためだ。そのとき、近所の住人が家から出てきて盛んに何か言っている。井戸端会議でも始まるのか。

「あの、すみませーん」主婦のひとりが作業員に声をかけた。
監督は、ぱたぱたと長靴の音をさせながら主婦に向かって歩いた。遠くで見ていても、三人の主婦の口調はひどく荒く、激しいものだった。何を言われているか分からないが、監督は主婦の前に立ち尽くしていた。監督は作業しているマンホールに戻ってきて、「家のトイレが噴き出したって」と弱った表情で言った。作業員たちは、「え」と驚いた顔になって作業を中断した。

生暖かい風が顔に吹く。合羽の中は湿気で濡れて気持ち悪い。僕は今の会話について考えてみた。それはどういうことだろう。トイレの種類には、くみ取りトイレと水洗トイレがある。水洗トイレは浄化槽を利用したものと下水道に接続されているものがある。浄化槽はタンクがあって、水洗トイレの水を処理して放流し、一年に一度は汲み取りをしてもらう。一方、下水道に直接つながっているから浄化槽の維持管理が必要ない。この住宅地は下水道が設備されていて、直接トイレと下水道がつながっている。水圧で逆噴射したということか。

監督は上司に連絡して事情を説明し、現場に来てもらった。クリーニング屋に依頼して二件の家のトイレを掃除することになった。災難にあった家は大変だな。これも運命なのか。水洗トイレから糞尿が噴き出すなんて、恐ろしい運命だ。月と太陽が重なった十一時の出来事だった。

コメント

とんば
2009年7月23日21:37

水圧で噴き出したのなら、その先で何か詰まっていたんですかね?。
被害にあった家の方は不ウンでしたね。
ウンが悪かったとしか言いようが有りませんね。ウン。
お日様が隠れたのでは無く、ツキが無かった訳ですね。

かくの
2009年7月23日21:47

はは、とんぼさん、うまいことをいいますね。
家のところにある下水配管の蓋をあけることによって空気の逃げ場を作るわけなんですが、雨水用の蓋と間違えたらしく、空気の逃げ場がトイレの方になってしまったそうです。あれから今日も留守だったところから苦情が入って、監督があやまりに行ってました。はじめての現場監督で任されたので、まだ慣れていないようです。会社に戻ってから社長に叱られたといってました。

Kei.K
2009年7月23日21:52

ある意味ホラーですね。
月の力か、太陽の力か・・・?
特に月には色々なパワーがあるって話ですからね。
でもやはり清掃される方がいること、そういう仕事の方には感謝しますね。

かくの
2009年7月23日22:00

Kei.Kさん、怖いですよ。朝、現場に着いた監督が、「なんか、腹が痛い」と予知したみたいなこと言うし、まさに日食の盛りの事件でしたからね。太陽と月が並んで、巨大な引力が働いたなんてね。なんか、連絡したら、その日にすぐクリーニング会社の人がきましたよ。、トイレは頻繁に使用するものでしょうから、明日というわけにいきませんものね。そういう職業があるんですね。

マンモ.ス
2009年7月24日8:52

うちはトイレではないのですが・・・リフォームをしてキッチンもオフロも取り替えました。で1年後にパイプの掃除に来てもらったら、キッチンを高圧洗浄しているときにお風呂からボコボコ・・・となってその場で作業がストップしましたよ・・・結局お風呂のパイプが詰まっていたからなんですが・・・これがトイレだったら・・・と思うとぞっとしますね・・・

かくの
2009年7月24日17:49

そうでしたか、まんもすさん。
水まわりは全部がつながってますからね。トイレ、台所、風呂の水は最終的に下水道や排水溝に流れていきます。どこかで圧力がかかると、そのどれもが影響します。トイレがぼこぼこしないでよかったですね。留守だったところは、泥棒が入って汚物をぶちまけたのかと思って警察を呼んだそうです。でも事情がわかって許してもらったと監督が言ってました。

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